「選ばれるクルマ」を作る能力の高さにおいてマツダを凌ぐメーカーは世界中を探してもほとんどないと言えるほど、マツダは「志」の高いメーカーだ。RX-7、RX-8、アテンザといずれの代表モデルも、究極にクルマライフを楽しむ為に考え尽くされた設計が施された不朽の名車ばかりだ。最高に幸せなライフスタイルの為に作られた、最高のクルマ。そのデザインは10年経っても朽ち果てることはなく、今なお現役バリバリで新車で十分に売れるほどのスタイルを誇る。10年前のマセラティやBMWのデザインはとっくの昔に寿命が尽きていることを考えると、これは「奇跡的」ですらある。
マツダの絶対的な能力に惹かれてユーザーになったファンにとって、新型アテンザが果たしてその系譜に相応しいクルマなのか? デザインはともかく、一番気に入らないと感じる点が、とりあえず「ディーゼル載せました」というブレきった姿勢だ。CX-5がヒットしたので、アテンザのキャラクターを無視してそのまま載せましたという「思考停止」っぷりを見せつけられては、疑心暗鬼になるのも無理はない。さらに決算発表の質問にいつもイライラしながら答弁する「小者」の山内前社長が「マツダの歴史で間違いなく最高の1台」と軽々しく吠えるのを聞いて、「こりゃダメかも・・・」と懐疑の想いを強くしたファンも多いのではないか。
ただ「失敗作」と罵られる類いのクルマではないとは思う。実際にマツダの業績を押し上げる原動力になっているし、先代よりもあらゆる部分が「解りやすい」ので、ライバルとの比較という意味での競争力は確実に高まっている。しかし競争力が高いということは、裏返せばライバルと比較可能な要素が多いということである。現実にスペースに優れたFFセダンとしても、ディーゼルで加速力に優れたセダンとしても、他社のセダンで代用可能だ。
一方で先代アテンザは、代えが効かない「特別なクルマ」だった。FFで直噴のショートストロークエンジンで、前輪サスにダブルウィッシュボーンを使い、車重を1400kgに抑えたDセグセダンなんて世界中探しても無かった。その存在意義はポルシェのRRのスポーツカーと同じと言っていいほどの孤高のスピリットに包まれていた。ポルシェだって赤字になったのだから、こんなクルマをフラッグシップにしていたらマツダも赤字になって当然だったかもしれない。だけどその狂気に包まれた設計こそが歴史的名車の条件だと私は思う。
現行のCX-5やアテンザの好調に湧くマツダは、やがて時間の経過とともに「カラカラ」に乾いていくだろう。マツダが切望している「プレミアム・ブランド」とはBMWやアウディを指すのだろうが、これらのブランドも今ではもはや「カッサカサ」で、クルマとしての至高の価値を持つモデルはほとんど無くなってきている。もはや富裕層のクルママニアが振り向くようなブランドではなく、とてもじゃないが1000万円の価値があるクルマを作る(作れる)ブランドでもないのだ。
モジュラー化の最先端をひた走るBMWやアウディと、旧態依然の自社開発に固執する「化石企業」マツダのクルマ作りに置ける基本的なポジションは対極といえる。「開発力」という経営資源を本質的には必要としないモジュラーなクルマ作りは誰の目にも「技術」のマツダが採るべきスタイルではないのは明らかだ。ましてや同じ土俵で相撲を取ったところでBMWやアウディとは収益力に大きな違いがあるのだから、永遠に差がつまらない不利を抱えてしまう。
たとえマツダが自社開発を縮小し、部品メーカーに開発を丸投げするBMWやアウディのスタイルへと変化したところで、ブランド力にまだまだ差があることは明白なので、勝負にならないし、その方針ではおそらくマツダは生き残れない宿命にある。ほんの2年前までは経営破綻の危機の真っただ中にいたマツダは、フォードやトヨタが一目置くほどの先端技術を蓄積していたことで「破綻」を免れた。
アテンザのフロントサスがストラットに代わり、エンジンがロングストローク化され、気がつけばカムリやティアナと変わらない設計になってしまった。カムリやティアナは世界販売で年間30万台以上を売り上げる大ヒット車だ。年産12万台が目標のアテンザが全く相手にならないとはいわないが、生産効率で考えた時にアテンザが不利なことは明らかだ。マツダの首脳部はデザインとディーゼルエンジンで差別化を図っているので勝算ありと考えているようだが、その差異は決定的といえるものではない。これだけで北米シェアを大きく切り取ることは至難の技だ。
なんでこんな「博打」のような販売戦略になっているのか? あくまで推測だが、マツダが従来の主戦場としてディーゼルを投下する予定の欧州がなかなか危機から抜け出せず、自動車需要は明らかな下降線を辿っていて回復の兆しがまったく見えない。よってその埋め合わせに日本と北米にディーゼルを強引に持ち込むという、破れかぶれの販売戦略が策定されてしまったように思う。つまり設計段階から遭えなく頓挫した欧州戦略車としての設計のクルマを、その場凌ぎのキャッチを付けて日本や北米に投入し、減収減益が間違いない欧州市場の失敗を取り返そうという浅はかな計画にすぎない。そんなブレブレになかから生まれた新型アテンザがここまで売れているということは、予想外の健闘ともいえるのだけど・・・。
↓最高のマツダ車に乗って聴きたい。「狂気的」な美しさの名曲ぞろいです。このテンションでクルマ設計してくれ・・・。