間違いなく面白い!!
最初に断言しておきますが、「デザインが日本を変える」(前田育男・著)は、マツダ好きなら泣いて喜ぶ内部情報満載の素晴らしい新書だと思います。冒頭の50ページあまりでグイグイと引っ張り込んで読ませる巧みな構成は、さすがは欧州すら魅了してしまった稀代の日本人デザイナーだなと思う。ローレンス=ヴァンデンアッカーは、あまりに日本をステレオタイプに捉えすぎていて、直属の上司でありながらもそのビジョンには全く共感できないし、理解すらできなかった!!みたいなこと書いてあります。他の内容は伏せますけども、とにかくエピソードがエグくてパンチ力がある。
巨大な虚構が見え隠れする
すごく興味深いし、書いてあることのリアリティは強烈。だけども・・・やはりというか予想通りこの人の濃いキャラのせいか、とにかく「アクが強すぎる」。個々の論拠は非常に合理的・科学的・常識的な判断に基づく説明で成立しているのに、それらがまとまって作り上げる「結論」・「全体像」は、マツダへの『想い』が強い読者ほどざわざわと違和感に襲われるのかもしれない。もし目の前で前田さんにこの本の内容について熱弁されたら、かなり強烈なカウンターパンチのような反論の一つでも言ってみたくなる。ここに示されているサクセスストーリーは、「MAZDA」ではなくて「MAEDA」ブランドではないか!?
マツダ内部は敵だらけ!?
なんでそんなに「違和感」があるのか!?この染み出してくる「キャラの濃さ」はマツダの社員らしいというべきなのだろうが、自分のやってきた仕事に対する「謙遜」の要素があまりない。もはや武勇伝のように語られているが、「デザイン部」の不満分子を殴り飛ばし、社内の他の部門の頭コチコチの給料ドロボーどもを企画会議で沈黙させ、いばらの道を走ってきた!!と言いたくて仕方がない様子。前田氏がデザイン本部長になって以降に出したクルマはもれなく支持された。マツダ全体の販売も好調だ!!誰か俺に文句があるのか!?・・・って感じの徹底したカタルシス論調。それでも「前田さんはもうちょっと謙虚になるべきだ!!」なんて言うつもりはない(言う資格もないけど)、いやこれに書いてある通りだったんだと思う。間違いなく今のマツダの成功は、前田さんの「我」の強さがあったからこそ実現したと思う。
デザインの時代
今のマツダはデザイナーの実力がわかり過ぎて怖い・・・他の部門はエンジンの人見さんが注目されているくらい、この本にあるようにデザイン部が引っ張っている!!だからこそ「MAEDA」ブランドなのだけど、他のメーカーも似たようなものらしい。前田さんが大嫌いだったというローレンス=ヴァンデンアッカーもルノーを力強く牽引している。日産からGT-Rが発売された2007年頃は、デザインではなく、「MIZUNO」ブランドだったんだけど。それにしても「MAEDA」ブランドのデザイン力にはずっと驚かされっぱなしだ。「RX-VISION」や「VISION COUPE」は、市販を匂わすレベルの作り込みで、なおかつイタリアのスーパーカー・ブランドすら喰ってしまおうとしている。そこまでやりきったからこそ、欧州で大絶賛されて、栄誉ある賞をいくつももらったのだと思う。
マツダの単価はどんどん上がってる!!
マツダの作品を通じて前田さんは、歴史に残る大きな仕事をしたのは間違いないと思う。人によってはこの本の内容が尊大すぎると感じるかもしれないが、実際には貢献度の大きさ考えればこれでも十分に「謙虚」な方だと思う。グローバルでマツダ車の販売を伸ばし、CX5のヒットにより単価も上がった!!マツダと競合する多くのプレミアムブランドはどんどん単価が下がっているけども、マツダの動きは全く逆だ!!これを可能にしたのは、誰の目にもデザイン部の奮闘にあることは明らかだ。メルセデスやBMWの単価は元々高いけどもどんどん下がっている。マツダの単価は上がっている。フェアに見ても、MAZDAいや『MAEDA』ブランドのデザインが、完全にメルセデスやBMWのデザインよりも高い付加価値を実現している証拠だと思う。
カーデザイナーはいなくなる!?
メルセデスやBMWは中国市場に低価格のクルマを大量に売りさばくビジネスを選んだけども、『MAEDA』ブランドは、もはや車両価格を抑える方向には向かっていない。アウディもボルボも次々とウーバー、カーシェアリング、リース向けの販売に力を入れているらしい。もはや「個人向け」販売の時代は終わりを迎えつつあると考えているらしい。前田氏によると、この流れが自動車業界を支配した時に、カーデザイナーの仕事は終わる!!と書いている。この流れにどれだけ抵抗できるか!?他のメーカーはどーなるかわからないけども、『MAEDA』ブランドはこれからも「選んでもらえる」クルマを作り続けることで自動車産業全体を変えてみせる!!・・・この本で熱く主張している。
デザインとマツダは切り離せない
『MAEDA』ブランドがコンセプトカーのデザインにただならぬ情熱を注ぎ込む理由であり、デザインがマツダにとっての「プライオリティ」であり続けてきたから、ファンに見捨てられることもなく、なんとか存続している根拠だと断言している。・・・ここまで読んで、従来のマツダファンはどう思うだろうか!?若造の分際で恐縮だけども、「マツダだけあればいい!!」とどっかで強く感じていた理由がわかって納得する気持ちと、デザインを剥ぎ取った後のマツダ車には何が残っているのか!?そこに不満を残したままでいいのか!?という疑問も同時に感じた。そして前田さんに言われるまでもなく、マツダの文化においてデザインは常に重要であり続けたから、2012年から変わったという認識も違う気もする。
センティア復活!?
次期アテンザがFRになって縦置きのV6エンジンを搭載する・・・とか噂されている。デザインだけでなくて「中身」も変わります!!という力強い宣言なのだろうけども、その領域に立ったところで販売が苦戦しているトヨタ、メルセデス、BMWのFRサルーンと同等の設計になるだけだ。マツダが作ったクラウンみたいなクルマを今更に「選ぶ」だろうか!?せっかくにイタリアのスーパーカーブランドも脅かすようなデザインを作っているというのに、中身はバブルで止まっていていいのだろうか!?センティアに戻ることが「進化」なのか!? 内燃機関を積む大型サルーンはFRに帰結するしかないのかもしれないが・・・。
デザインと同等の緻密な設計を!!
前田氏の本能の叫びを聞いているようで、ワクワク感が止まらない本だけども、その研ぎ澄まされた論理性ゆえに、「スカイアクティブ」が未完成な存在でしかない現状にちょっと白ける時がある・・・いや未完成ではなくて、それは緊急避難的な設計だったんじゃないかという疑惑もまだくすぶっている。Cセグメントのシャシーを引き伸ばしただけの設計が、フラッグシップで良かったのだろうか!?別にマツダだけの話ではなく、日本車・ドイツ車にとっては極めて当たり前のことだけども。自動車先進国と肩書きにあぐらをかいて、従来の上級モデルがどんどん売れなくなっている日本車・ドイツ車。価値ある設計ってのはイタリアやイギリスの高級スポーツカーの専売特許になりつつある!?
あのブランドに先を行かれている!?
この中途半端な状況をすっかり変えることなしに、前田さんが語る理想もどこか空虚に響く。そしてこの糞詰まりの状況を打破すべく最も頑張っている日本メーカーは、もしかしたら新型になったLSやクラウンを作っているグループじゃないか!?そして彼らの作るプリウスもまた「選ばれる」進化をしている!?果たして「スカイアクティブ」各モデルは、プリウスが見せた2代目から3代目から4代目へとめざましく大きな進化幅を超えていけるのだろうか!?これは素人が単純に判断できることではないけども、前田さんの本を読みながらそんなことが頭をよぎってしまい、途中から内容が入ってこなくなりました・・・。
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