2014年09月18日

ロードスター と トヨタ86

  新型ロードスターのデザインが発表されて2週間ほど経ちました。当初の何じゃこれは!といった違和感は徐々になくなり、逆にこのデザインは決して場当たり的なものではなく、かなり長期的なビジョンに基づいて計算されている・・・といった確信じみたものが降ってきました。あまり憶測だけで話をしてもまったく説得力がないですが、マツダのデザイナーは日本の小型スポーツカーの近作のデザインにとても口惜しいものを感じていたんじゃないかと思うんですよね。

  ホンダCR-Z、トヨタ86/スバルBRZ、ダイハツコペンといったスポーツカーが発売されてきましたが、やはりどれも”守り”のデザインなのかなという気がします。いずれもスポーツカーとしてのオリジナリティを過度に追求するのではなく、ハッチバックやコンパクトカーと同じように使える無難さを、マーケティング的に要求されていて設計に盛り込まれていたようです。さすがにガチのスポーツカーのデザインはちょっと恥ずかしいという層(お金持ってる)に狙い通りウケたようで、CR-Zも86も発売直後はかなりのセールスを記録しました。

  ホンダやトヨタといった巨大メーカーともなれば、スポーツカービジネスに十分な勝算があったとしても、他の「ビッグプロジェクト」が動けばそちらに資本が優先的に配分されてしまうので、なかなか腰を据えて長期的視野でスポーツカーを考えられない部分もあるんじゃないかと思います。実際にCR-Zも86も無事にFMCを迎えられるのかどうかかなり不透明なようです。2代目を同じようなコンセプトで出しても、初代デビュー時にはあった「初期効用」が大幅に低減するのは避けられないというのも、シビアな経営判断で知られる両社には当然にあると思います。トヨタやホンダの幹部がよく口にする新型スポーツカー云々よりも、日本でスポーツカーを楽しむ環境を作ることが大切!という言葉には、スポーツカーマーケットに関する議論は社内でやり尽くしました!という深い「含蓄」を感じます。

  それでもおそらくトヨタ86に関しては2代目以降のモデルが発売されると思います。世界で10万台、日本でも軽く2万台を超える累計販売を記録していて、この数字については「大健闘」「少ない?」と意見が分かれる部分もあるでしょうが、トヨタはモデルの多様化によるラインナップの重層化を真剣に考えていてスバルに続いてBMWにも開発を打診するなど「外注化」は軌道に乗りつつあります。トヨタ、レクサスを通じて現在最も「ファン・トゥ・ドライブ」を体現できているモデルをあっさりと消滅させるとは考えにくいです。トヨタが主導権を取りHVやターボが高級車でも当たり前になってきたご時世に、NAエンジンのレスポンスに拘ったスポーツカーをこれだけ売ったことには大きな意味があります。バブル期の日本のスポーツカーはNAばかりのセダンに対して「ターボ」で個性を発揮するモデルが多かったのですが、15年が経過していよいよ立場が逆転しました。

  そもそもスポーツカーとして「効用の低減」を受けにくい地位にあるフェラーリやポルシェの多くのモデルはレスポンスを重視したNAモデルです。そしてマツダ・ロードスターもその領域で勝負し続けたことで、途切れることなく4代目まで代を重ねることができました。同じく長寿スポーツカーとして日本を代表する型式になったフェアレディZは先代モデルから潔くNA大排気量へ舵を取ったことで消滅の危機を逃れたといえるかもしれません。とある年配と思われる方がブログで「トヨタ86は安いのに1年でやっと7万台か・・・三菱GTOは倍の値段したけど18万台も売れたぞ!(注:10年間のトータルで)」なんて仰ってましたが・・・。

  三菱そしてランエボやGTOを否定するつもりはないですが、あまりにエクストリームに振り過ぎてサーキット基準のクルマで良しとした設計に無理があったように思います。日本に限らずどの国でも高額所得者は過密の都市部に偏住する社会構造の変化に全く対応できなかったのが三菱の失敗だと思います。九州や北海道の炭坑主が地場産業のコンツェルンを形成して、地方の羽振りが良かった時代が続けば良かったのですが、今や大手総合商社が仲介した大企業の連合体が日本全体を覆っていて、株主だけが儲かる仕組みが出来上がっています。首都圏では配当などにより平均所得は年々上がっていますが、給与所得はアベノミクスでようやく下げ止まりの気配が見えたかというほど下がっています。話がやや脱線しましたが、高所得者の住む東京にはまともなサーキットなんて無いですし、首都高で本気で走れば社会的地位を失ってしまいます。三菱が目指したスポーツカーの生きる場所は日本市場には無くなりましたし、WRXもGT-Rもこのままでは同じ運命を辿ると思われます。

  「AWDターボ」という設計が完全に終わっているとは言いませんが、911ターボがポルシェの主役になることはないでしょうし、フェラーリ・カリフォルニア(V8ターボ)をフェラーリファミリーの一員として認めるのを躊躇う「原理主義者」も多いでしょう。そういう意味でトヨタ86はスポーツカーとしての領域にしっかり足を付けて、単なるもの珍しさや「スペシャリティカー」的な興味だけで終わらないコアなファンを獲得する余地があるクルマと言えます。一度86を愛車としてそのフィーリングが体に染み付いたら、もはやHVのレクサスISやクラウンでは全く満足出来ないのではないでしょうか。

  さてトヨタのお手並み拝見とばかりに86を見つめていたマツダの開発陣は、自分達が作るロードスターが86に負けるとは思わないでしょうが、スポーツカーとして「一過性」に終わらない普遍性を獲得したかもしれない86を相当に警戒していると思います。特に海外市場で日本以上の好評価を得ているのは脅威で、従来のロードスターが持っていた海外市場が大きく浸食されている可能性が高いです。そこでマツダ陣営の採った戦略が「デザイン」による「86」との差別化だと思われます。

  86は「単なるスペシャリティカー」に収まらない長期的視野のスポーツカー設計を持っているにもかかわらず、デザイン面ではニューカマーとしての「無難」さが先立つイメージに収まりました。日本でもコアな人気を誇るロータスを実用車的に誂えたという表現が適当かわかりませんが、ハードトップに拘るなどメンテナンス上の手間を極力排除して、あらゆる層に「買いやすさ」をアピールできる設計であることは間違えないです。しかしどうしても弱点というのは発生してしまうもので、特にトヨタの場合はレクサスという高級車ブランドを抱えていることからも、レクサスの商売を邪魔するような高所得者を惹き付けるような部分(内装の洗練など)を86から意図的に排除しているように思います。

  「世界のトヨタ」にここまで完璧な仕事をやられてしまっては、弱小マツダとしては86のこの「弱点」をピンポイントに突くような戦略を採るしか生き残る道はないわけです。そこでマツダが新型ロードスターのデザインに意図的に織り込んだのが、「フィアットが認めたロードスター」というアピールです。新型のデザインを見て真っ先に思い浮かんだのが、フェラーリ・カリフォルニアのフォルムでした。ロードスターがよく売れる地域の一つであるアメリカ西海岸を車名に盛り込んだだけあって、ファラーリのラインナップの中で最もロードスターに近い位置づけのモデルと言えます。V8ターボで560psというまったく異次元のパフォーマンスカーではありますが・・・。

  NCからNDへの変更点としてフロントの表情は面影があるものの、ボンネットの先端部の下がり方とその先に付くグリルのサイズと形状は大きく変わっていて、この点がフェラーリ・カルフォルニアを彷彿させます。ヘッドライトの位置がだいぶ違うので、表情こそは別のクルマにみえますが、ボディの基本的なラインそして特に後部に張り出したリアフェンダー回りの形状はとてもよく似ています。「フィアットのお墨付き」を貰ったことでマツダにはイタリアのスポーツカーブランドの一員としての自覚が芽生えたようで、イタリア本国でのマツダブランドの地位向上が直近の至上命題になったようです。

  「なんか新しいロードスターって、フェラーリのパクリっぽくない?」という揶揄があることを承知の上で、「フィアットの金でデザインやっているんだから、リスペクトは当然のことだろ・・・」と涼しい顔で返答するマツダ・・・。これまでの努力とポリシーを持ち続けたことが実って、なかなか居心地の良い場所を確保できたのではないでしょうか。



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posted by cardrivegogo at 09:02| Comment(2) | ロードスター | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
こんばんは

お久しぶりです。
私もトヨタを始め他のメーカーがどれだけスポーツカーを生産し続けるかは疑問が湧いています。
やはり、フェラーリやポルシェのようなメーカーを除いて、多くのメーカーは乗用車で利益を出し、その乗用車のイメージを上げたり、メーカーのイメージ戦略としてスポーツカーの存在があると思います。

それは日産のGT‐Rでもその一例でしょうし、トヨタのLFAもその一台だと思います。

それだけに高性能を求めるとそのコストが上がり、利益はなかなかでないというジレンマになるので、好調なモデルは珍しいと思います。

さて、国産車は、バブル前後の頃、乗用車のコンポーネンツを使用してスポーティーなモデルが大量に開発されました。もちろんスポーティーなエンジンも…。

だからこそ、私たちが車好きになったのですが、この時代になるとメーカーも目の肥えてきた私たちに低レベルの車を易々と出すわけにもいかないので大変だと思います。

しかし、ロードスターは高出力のエンジンではなく、また大排気量でもないところが歴史が続いている要因ではないでしょうか?

もちろん昨今の衝突安全性能の向上のために、軽量化という一番大変な課題があるのですが、基本となっている人馬一体というものがあるからこそ、市場や販売の影響を受けにくい結果になったのではないでしょうか?

トヨタがもし86を大切にするのであれば、派生車種を考えずにモデルの基本の考え方を踏襲するようであれば、今後も残ると思いますが、86のオープンは許せるとしてもセダンを出すとか、あるいはワゴンを出すとかなった時は、今までの市場から消えたモデルと同じような結果を生むのでないかと思いますが…。
いかがでしょうか?
Posted by クリュー at 2014年09月26日 22:40
クリューさんこんにちは
コメントありがとうございます

いやーその通りですよね。
実際にスポーツカーは現実に検討してみると
ハードルが高いです。
そもそもセカンドカーというだけで・・・。
86は1台所有でもなんとかなる設計ですので、
ロードスターは数字じゃまず上回れないと思います。

86の専用設計は欧州でも「トヨタの本気を見た!」
と絶賛されているらしいですね。
コンポーネンツの共有化を進めて
開発費の償却を早めたいところでしょうが、
2ドアのスポーツカーだけで十分商売になってます。
車台共通車の開発が進んでいて、
トヨタがセダンでスバルがSUVのみたいです。
スポーツカーではなく軽くてスポーティなセダン・SUV
という意図なら理解できますし、
「アルテッツァ復活」なんて素晴らしい企画じゃないですか。
Posted by CARDRIVEGOGO at 2014年09月28日 04:28
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