右肩上がりの日本の自動車業界の「悪夢」といえばバブル崩壊ですが、これが「冷戦終結」とシンクロしたのは偶然ではありません。冷戦終結により比較的安心して投資できる市場が世界中に出現しました。それまで日本の不動産に投資されていた資金が、突如として韓国や東南アジアへと流れ出しました。さらに金融政策の未熟なタイで1997年の暮れにデフォルトが起こると、さらに周辺の東南アジア諸国へと資金は瞬く間に移動し、世界各地の新興国である日突然に失業者が街に溢れるという"ストレスフル”な世界へと変わっていきました。
この背景には成熟しきったアメリカ・日本・欧州などの行き場を失った資金が、ハイエナのように世界中のあらゆる投資対象を嗅ぎ回り、その水先案内人として”ヘッジファンド”と呼ばれる投資銀行が乱立しました。成長著しい新興市場には投機目的で資金が投下され、タイのようにリスクが高まると一斉に引き上げるという素早い投資を可能にしたのもまさに「冷戦崩壊」です。さらに有り余る資金はかつて先進国の成長の原動力となった「安定優良企業」のよりもアメリカの新興企業や落ちぶれた企業の方が債権利回りが高いことから、これら「ジャンク債」を専門に扱うファンドすら多数出現しました。
自動車業界でも「投資価値」が厳しく値踏みされるようになり、日本やドイツのメーカーへのコンプレックス?を抱える米国ビッグ3は、そのプレッシャーから逃れるようにM&Aを繰り返し、瞬く間に世界の自動車業界を再編成していきました。マツダ、スズキ、三菱、いすずそして日産が海外資本の傘下となりました。
その後、「投資銀行の破綻」が世界を揺るがすなどの混乱期を経て、ご存知のように今では日産以外の4社は資本提携を解消されています。トヨタ傘下になったものもありますが、現在では友好関係にあるメーカー同士でも安易な合併はしなくなりました。M&Aの結果統合された開発部では両陣営のエンジニアによる軋轢が生まれることが、2000年代を経て経験されたため、日産と三菱、トヨタとマツダはもちろん統合のメリットもあるのですが、今後も付かず離れずの関係を続けていくといわれています。トヨタのスバル支配に関してもクルマ作りの面では一切の統合が行われていません。
時価総額で業界トップになることが、経営の最優先課題と捕えられていた時代がありましたが、今ではそれほど重要視されなくなってきたように感じます。もちろん市場から認識されないほどの規模ではお話になりませんが、かつては「この規模では絶対に生き残れない」と言われていたマツダやスバル、メルセデスやBMWといった世界で10位以内に入れない生産規模に過ぎないメーカーが、世界の主要市場で主導権を握り続けることに成功しています。
トヨタ・VW・GM・ルノー日産といった年産約1000万台を伺う「メガグループ」を相手に、マツダ・スバル・BMW・メルセデスの4社合計で500万台にも満たない「弱小メーカー」がなぜ優位に立っていられるのか? これがビールやお菓子のメーカーだったならば絶対にあり得ないことだと思います。「メガグループ」は部品の納入単価も下げられるし、生産コストを下げる余地も大きいし、販売店網を構築する際にも「規模」があれば有利ですし、広告宣伝費も桁違いです。そして研究開発にも潤沢な資金を使うことができます。
おそらく10年前ならば「弱小メーカー」はどこかの「メガグループ」の傘下に入らなければ生き残れなかったでしょう。何がこの状況を変えたのか? 一番大きいと思われるのが、インターネットの力かもしれません。従来では自動車専門誌を読む人やディーラーに足を運んだ人くらいしか、マツダやスバルの全ラインナップを知っている人はいませんでした。しかし今ではネットの情報で自宅にいながらほとんど時間もかからずに、全社の全ラインナップ全グレード全オプションを知る事ができます。
さらに各クルマのユーザーからの情報(口コミ)も、中立的な立場からたくさん発信されているので、従来は「トヨタが安心」と思っていた層が、ネットで手軽に情報を調べて「マツダとスバルがなんだか良さそう」という印象を持つことが多いのではないでしょうか。マツダのディーラーの人が言っていましたが、以前よりも商談の時間が断然に短くなったそうです。「みんな買う気満々でくるからですか?」と質問すると、「それだと有り難いのですが、そうではなくて来店する人がマツダについて良くご存知で、みんな”スカイアクティブ”って言葉を知ってますし説明する時間が短くなりました」と。そこで短くなっちゃダメじゃない?という気もしますが・・・。いくらでも引き出しがあるのだから、「絶対にマツダだ」と思わせて帰らせないと。と余計なおせっかいが頭を過ります。
ちょっと長いので次回に続けます。
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