極論をおそれずに言うと、マツダもBMWも主力モデルのパッケージはどんどんと個性を失ってきているように思う。現行のアテンザと3シリーズに至って、どちらもこれまで最高にこだわってきた「大切なもの」をいとも簡単に捨て去っている。もはやどの部分を切り取っても、「アテンザ」であり「3シリーズ」である証明となるようなものは無くなってしまった。つまり必ずそのクルマでなければダメという点が両車ともにもはや存在しないのだ。それでも「GJ系アテンザ」も「F30系BMW3」のいずれも歴代最高の出来映えと絶賛されている。
「大切なもの」とは何か、それはアテンザはFFスポーツセダンの命である「前輪ダブルウィッシュボーンサス」であり、3シリーズは「直列6気筒のNAエンジン」だ。以前からの両車それぞれのファンはこの変更に対しては「モデルの終焉」を感じるほどの虚無感を覚えたはずだ・・・。それでも失望したファンの数を大きく上回るペースで新規のファンが「入会」している模様だ。もちろんクルマにはFMCの度に何らかの変化が織り込まれることは極めて健全なことだ。もっと歴史がある「ポルシェ911」や「トヨタクラウン」「VWゴルフ」だって幾多の変化を経験してなお多くのファンを獲得してきたわけだ。来年30周年を迎える3シリーズはともかく、まだ10年程度の歴史のアテンザには「伝統」や「変更」といった言葉はまだ早いのかもしれない。
BMW3はその先代のE90系からすでに4気筒エンジンが主流になりつつあった。それでもE90系には335iなどの設定があり直6モデルも買えたが、2012年のF30系の登場で直6モデルはアクティブハイブリッドのみになった。なぜBMWは自身のアイデンティティと言える直列6気筒にこだわらなかったのか? 表向きな理由は「燃費の向上」「CO2排出量の削減」であるが、実際にF30系の日本での販売の8割近くがディーゼルになっていて、「燃費」という大義名分は十分に果たされていない。なぜBMWは直列6気筒を降ろしてしまったのか?
BMWの3BOXカーのラインナップを俯瞰すると、「6シリーズ」は孤高の地位にありライバルは不在といってもいい。「5シリーズ」はメルセデスEクラスと顧客を分け合うくらいで、ライバルもかなり手薄だ。そして「3シリーズ」はと言うと、2000年代を通じて「スポーツイメージ」を武器に各国で人気を博していた。数あるライバル車の中では、その知名度で頭一つ抜けていたといえる。しかしその地位にいたばっかりに、ライバル達の格好の標的となって、次第にその地位を脅かすクルマも増えていった。
特に3シリーズを猛追したのは2000年代に欧州でマルチブランドを構築しつつあったフォード陣営だった。欧州フォードと傘下のマツダの合力で3シリーズのライバル車種を作り上げると、それぞれのブランドに車台を配給して「フォードモンデオ」「ジャガーXタイプ」「ボルボS60」「マツダ6」によるBMW3シリーズ包囲網を敷いた(ちょっと大げさ?)。ほどなくフォードの経営危機により、ブランド群は再編されていったが、フォードとマツダが作り上げた「軽量」「ハンドリング」「足回り」で3シリーズを軒並み上回るクルマが今も継続して販売されている。
ちょっと四角四面な表現になってしまったが、フォード陣営車とBMW車を比べたときに、アウトバーンでの高速走行はともかく、より幅広く世界の道にマッチしたクルマ作りができていると評価されたのは、フォード陣営の方だった。フォード陣営のDセグのパッケージは、電動ステアリングを使っての最高のハンドリングが好評となり、特に足回りも豪華に装備した「マツダ6」がBMWのお膝元のドイツで大反響を得た。この瞬間からBMWの3シリーズに対する考え方は決定的に変わったようだ。直ちに油圧ステアから電動ステアへ切り替えを行った・・・。いよいよ3シリーズは「大衆化」への道を辿り始めた。 (次回に続く)
↓直4ターボ、軽量化、電動ステアリング・・・もはやかつての3シリーズとは違う。